今回はこの1冊。
原題は「Salt,Sugar,Fat:How The Food Giants Hooked Us」で「フードトラップ」というのは日本語版に付けられたタイトル。
著者はニューヨーク・タイムズの記者で、数年以上の時間を費やし、加工食品の塩・砂糖・脂肪についてまとめた1冊。(なぜかタイトルの順序と違って、内容は砂糖・脂肪・塩の順で書かれている)
食べると幸せを感じる至福ポイント(ブリスポイント)の発見といった研究の歴史から、クラフト、ネスレ、ケロッグ、ナビスコ、コカ・コーラといった加工食品メーカーが仕掛けてきたマーケティングの歴史、さらに、どのように僕らの消費をコントロールしているかが記されている。
(一例を挙げるとスーパーマケットの製品の配置がある。どの店も生鮮食品コーナは端に追いやられ、加工食品が中央部分を大きく占拠している。)
様々な方法で僕らの消費を奪おうと競争する加工食品メーカーの創意工夫が描かれているが、特にコカ・コーラが世界中で行ってきたマーケティング戦略には思わず唸らされる。
この本自体のボリュームも相まって、様々な驚くべきことが盛り沢山に書かれているけれど、そんな中で僕の印象に残ったのはこの一文。
『企業の開発者や経営陣は、概して、自らが生み出した商品を口にしない』
そう、僕らをコントロールしている(しようとしている)彼ら自身は加工食品を口にしない。彼らは経済的に豊かな層に当たるが、加工食品を口にしないからそういった層に入ったのか、豊かだったから加工食品を口にしないのか…。
また、余談になるけれど、日本語タイトルの「フードトラップ」という言い方を僕は好きになれない。なぜなら、消費者が求めてきた「便利さ」を追求し、それを実際に形にした上で売上を上げてきた加工食品業界が、いかにも一方的に悪いような印象を受けかねない。もちろん、彼らに絶対的な正義があるとは言わないけれどが、僕ら消費者も反省すべき点はあるのではないだろうか。
さて、話を戻します。
そんな加工食品がはびこる世の中で、一体僕らはどうしたらいいのか?
本書の狙いは、食品産業に存在する問題や戦術を読者に伝えること(中略)
食料品の買い物に関して、選択権は私たちにある
あとがきにあるこの一文が答えを教えてくれている。
敵を知り、己をコントロールする武器を身につけることである、と。
これから時代が進んでも加工食品が世の中からなくなるとは到底思えないし、加工食品メーカーが本気で健康的な食品を作る可能性も低い。おそらくあるのは、加工食品を食べないグループ(豊か/健康/非肥満)と加工食品を食べるグループ(貧しい/非健康/肥満)に、よりハッキリと分かれていくことくらいだろう。
本当に素晴らしいドキュメンタリー本ですが、加工食品を食べている人は青ざめていくかもしれません。ただ、自分自身のためにはもちろん、お子さんがいる方にもぜひ読んでほしい。
消費と健康状態、それらをコントロールするための武器を与えてくれる、貴重な1冊です。